俳優は顔が命
10の作品があれば10の顔
緊迫感にみちたストーリーだけでなく、ここにはかつて映画が秘めていた「虚構のダイナミズム」が充満しています。本作を観おえ、フッ~とひと息ついてから、今さらながら思いました。俳優は顔が命だよなあ。
それぞれの良さ
ニッポン人の大方が思い浮べるあなたの顔は、「第三の男」のハリー・ライムや「完璧!」とキャッチ・コピーをつぶやくニッポンのウイスキーのCMでありましょう。いや、英会話教材の新聞広告の顔を思い出すかもしれません。しかし、それらはあなたの顔の一部です。10の作品があれば、あならには10の顔があります。本作はもちろん「マロペス」「市民ハーン」「ザ・オセロ」「審判の日」「フォルスタッフー」などなど、あなたはひとつとしておなじ顔がありません。あなたほど人間の邪悪な面を多様に体現できる俳優は、今もっていないでしょう。でも現在の若い人が見たら、あなたの役づくりの顔は歌舞伎の隈取りのように大仰に映るかもしれません。時代といえばそれまでですが、昨今は人間を描く映画が少なくなりました。あなたの顔は「映画が人間を描いていた時代」の大いなる遺産といえるでしょう。あなたの顔とともに本作を盛りあげているのは、あのヘンリー・マンシーニの劇伴音楽です。